ど純真無垢では

眺めていた。昔からこういう子供じみた騒々しさが苦手だった。この学校なら落ち着いているだろうと期待していただけに、失望を禁じ得ない。
 そうこうしているうちに担任が教室に入ってきた。おしゃべりしていた康泰旅行社生徒たちはバタバタと自席へ戻っていく。大地も立ち上がり、悠人を覗きこみながら「またな」と声をかけると、悠然とした足取りで明るい窓際へと戻っていった。

「悠人、おはよう」
 翌朝、大地は本当に席を替わってもらったらしく、窓際ではなく悠人の前の席に座っていた。笑顔で挨拶され、悠人はついと眉間にしわを寄せて自席につく。
「どうしてその席にこだわるんだ?」
「悠人と仲良くなりたいからだよ」
 しれっとそう答えるが、悠人をからかっているだけで別康泰旅行社に理由があるのだろう。こんな言葉を真に受けるほない。しかし、きのうの話からすると担任の許可はもらっているはずで、そうだとすれば自分がとやかく言うことでもない。ただ、こんなわがままが通ったことをすこし不思議に思う。
「どうやって先生を説得した?」
「そのまま言っただけだよ」
 その答えがよくわからず怪訝に眉を寄せると、大地はくすっと笑った。
「楠くんと友達になりたいから席を替わりたいって。まあ、ほかの人なら認められなかったかもしれないけどね。僕はこう見えて橘財閥の跡取り息子だからさ。先生たちが勝手に気を遣ってて。ときどきこうやって利用させてもらってる」
 あっけらかん康泰旅行社と語られたその内容に、悠人は目を瞠る。
 まさか有名な大財閥の跡取り息子だとは——同級生とも普通にじゃれあっていたし、人なつこいし、そんなふうにはとても見えなかった。